「よし、じゃあ食べ比べてみよう」
凍結し、解凍した牡蠣の殻を剥いて一口。そして、新鮮な牡蠣を一口。5秒経ったら、笑って
「え?!、冷凍した方が美味いな!」
一番に試食したのは、食品冷凍学の権威、東京海洋大学の鈴木徹教授です。
ここは、宮城県南三陸町のJFみやぎ(宮城県漁業協同組合)志津川支所。
鈴木先生のひと言に目を輝かせ、続いて試食したのは、志津川支所運営委員会の佐々木憲雄委員長はじめ漁協のみなさん。
「確かに、美味い!」。笑顔がこぼれました。
「素晴らしい凍結機で実験を重ねてもらい、この冷凍殻つき牡蠣を地域復興の起爆剤にしたい」と佐々木委員長が語ります。
東日本大震災から5年が経過しました。志津川ではワカメも牡蠣の養殖もようやく戻りつつありますが、湾岸周辺はまだまだ、何も無い状態。南三陸の町役場も錆びた鉄骨の状態で、何も無い砂地にぽつんと建っています。漁協の建物自体も6年目のこの6月に、ようやく完成したという状況なのです。
さて、その復興の立役者として期待がかかる、「素晴らしい凍結機」とは、中山エンジニヤリング㈱の「ηmax (ηmax)Refrigeration System」です。
同機はJFみやぎ志津川支所が経済産業省の補助金を得て導入したもの。2015年3月末まで3年間、鈴木先生のアドバイスを頂きながら、六次産業化の事業開発実験を行ってきました。中山エンジニヤリングでは、この実験をサポートする取り組みを当初から行っています。
2015年は3,000個の殻つき牡蠣を凍結。さらに今年は、20,000個という本格的な凍結テストを実施して、来年度に向け事業化に弾みをつけました。
さて、冬ではなく5月に牡蠣?と思われた方も多いかと思いますが、実は、この5月の時期が「旬」なのです。産卵時期を前に最も粒が大きくなる時期で、身がぷりぷりと太り旨みがピークを迎えます。ところが暖かくなるとマーケットの需要は下がり、せっかくの美味しいものが陽の目も見ずに捨てられるという場合もあります。
そこで、「凍結」のパワーが役立つことに。最も美味しい旬の味覚を保って、しかも「殻ごと」の状態で凍結、保管することで、秋以降の最重要期に、価値ある商品として市場に提供することができるのです。
さらに、今年の凍結実験は、新たなチャレンジがありました。それは何かというと、「大温度差凍結」。
ηmaxシステムは-70℃の超低温が可能な高効率の凍結機ですから、一気に庫内に殻つき牡蠣を入れることで、高品位の凍結ができるのです。
昨年までは過冷却状態をつくり一気に凍結させる方法で行ってきましたが、「大温度差凍結で過冷却凍結とほぼ同等の品質確保が可能」と鈴木先生が判断、実験となったのです。結果は冒頭でご紹介した通り。見事、大成功でした。
殻つき牡蠣の凍結は、牡蠣の養殖を行う全国各地から注目を集めています。今回、より効率のよいエネルギーで最大限の品質を得ることに成功したことで、事業化へとさらに歩を進めたと評価できます。
水揚げした牡蠣は、陸上の水槽内で滅菌した海水に漬け、浄化されして凍結しています。殻つき冷凍牡蠣の原料は、水揚げ後浄化48時間のものを使用しています。
凍結前にまずサイズ別、S M Lに選別します。漁協のベテランが手早く作業して、1バッチ900個を選別、ラックに並べます。
1時間以内にラック2つに収まった殻つき牡蠣は、一気に庫内へ。大温度差の負荷を加え凍結スタートです。
初回実験限定で26箇所につけた温度センサーが、牡蠣の凍結状態を逐一報告してくれました。
・中山エンジニアリングの凍結コンサルティング
・ηmax ラックフリーザーでの凍結プロセスをセンサーで徹底リポート
結機はさまざまなタイプがありますが、殻つき牡蠣の場合は、牡蠣殻が断熱材のように中の身の凍結を邪魔します。例えば冷気を吹き付ける従来のエアブラスト方式では、外側から冷やして内側まで到達するのに時間がかかります。より早く熱を奪う方法として、大温度差凍結は大きなメリットがあります。
ηmax高効率凍結機の威力をいかんなく発揮。入庫後約50分で凍結を完了しました。
出庫した後は清潔な水を用意して、牡蠣を入れた籠をさっと漬けて、牡蠣殻の表面に氷の膜・グレーズをつけます。製品保護のため重要なひと一手間です。
サイズ別に密封、箱詰め。
-25℃以下の保管庫で出荷の時を待ちます。